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教員コラム

2009.09.24 - 共生デザイン学科  共生デザイン学科 山崎稔惠ゼミナール

謎解き・小さなものに詰まっている世界が面白い!

「文様の中には物語が詰まっていたり、何の関係もないと思っていたものが、意外なところで繋がっていたりと、多くの驚きを私たちに与えてくれました。」

今年2009年夏、オープンキャンパスでゼミ紹介をおこなうことになったとき、3年生のゼミ学生たちが、こんなことを展示パネルに書きました。
春学期のあるゼミの時間、研究室であれやこれや展覧会カタログを見ていて、印籠(=薬入れ。江戸時代、男性はアクセサリーのようにして腰につけた)に興味をもったのがきっかけでした。「この文様、何だろう?」「えっ、どうして、この文様?」。学生たちの眼がきらきら輝きだしました。「なら、調べてみる?」ということになりました。
かの女たちの推理・推察ぶりがとても伸び伸びして見事なものですから、オープンキャンパスの展示パネルから抜粋して紹介したいと思います。

[オープンキャンパスで展示したパネル]

(写真左から)

■《蕗に筍蒔絵印籠》
「どうしてタケノコとフキ?」――タケノコとフキは、ともに春が旬の食物です。一緒に料理されることがよくあり、相性もぴったりです。しかし、数ある食物の中でこの2つの文様が選ばれたことにはもっと深い理由がありました。タケノコは『食品国歌(しょくひんやまとうた)』に「マダケはよく水道を利し気を下し、痰を消して熱気を去るなり」……とあるように、昔の人たちの間で痰を抑え、熱を下げる薬として食べられていました。またフキの葉や花は、肺疾患や目の薬として利用するほか、長寿の薬としても利用されました(『江戸時代 食生活辞典』より)。つまり、印籠、タケノコ、フキの共通点は「薬」だったのです。(C.H.さん)

■《九貢象蒔絵印籠》
「ゾウブーム到来!!!???」――8代将軍・徳川吉宗の一言「象がみたい」と言っただけ……象関係の書物や絵画がたくさん出され、町には俄に象博士が出現したり、浄瑠璃や落語も作られました。象尽くしのスゴロク、象の置物、象模様の櫛や扇なども売り出されました。しまいには疱瘡に効くという赤い袋に入れた象の糞が薬として売り出されました。白い象が現れると国が栄える。昔の偉大な王や英雄の霊が宿っている。すぐれた力を表す。だから印籠に流行のゾウを描きました!!!(H.K.さん)

■《引出散蒔絵印籠》
「この模様、なんだと思う?」――これは襖や戸棚などについている「引手」を模様にしたものです。建築に付属する装飾金具は、この印籠がつくられた江戸時代のひとつの特色としてあげられます。桃山時代から江戸時代にかけて、世情の安定にともなって、建築ラッシュのような現象が起き、その後、江戸時代に入っても規模の大きな建造物が次々に造営されました。……襖の引出や釘隠しといった装飾金具の発展をうながしました。桂離宮の引出は特に有名で、とてもすばらしいです!……ひとつの印籠からその時代の背景や特色をみることができます。(M.F.さん)

■《月に烏蒔絵印籠》
「なぜ月にカラス+ウサギ?」――この印籠には月とカラスが描かれています。そして飾りにウサギが付けられています。月にウサギが住んでいるという話は有名ですが、そこにカラスが加わる要素は一体どこにあるのでしょう? 答えは中国の神話の中にありました。中国では月にウサギの他に、太陽にカラスが住んでいるというのです。そしてこの二つの神話を模様化し、祝い事の席で用いていたのです。この模様が日本に伝わり、なぜか月とウサギの関係だけが広まって、太陽とカラスの関係はあまり知られることのないものとなりました。(S.M.さん)

これからまだまだ、かの女たちの謎解きはつづくようです。

[2009年5月23日,箱根仙石原・ポーラ美術館見学会のときの学生たち]

山崎 稔惠(共生デザイン学科)