2013.01.17 - 共生デザイン学科 讃井 純一郎 理想の犬小屋をデザインしてください。
これは「デザインの心理」という私の担当科目で、毎年、初回の授業で行っている課題です。この科目は、共生デザイン学科のおもに1年生を対象としたもので、デザインとは何か、良いデザインとはどのようなものかといった、デザインの基本的な考え方を確認し、利用者の視点に立ったデザインの重要性、またそのためのツールとしての心理学を学ぶことを目的としています。
この最初の課題は、「デザインとは何か」を考えるための材料を提供するもので、右図に示すような条件を説明するだけで、
余計なことは言わず自由にスケッチを描かせます。
例年、履修生は120名前後ですので、「今年の1年生はどんなかな?」と、これら120枚のスケッチを見るのを、毎年、とても楽しみにしています。
学生の描く「理想の犬小屋」は、じつに多彩です。中には、ドッグフードを固めて作ったかまくら型の犬小屋や、「トロイの木馬」のような犬の形をした高床式犬小屋、さらにはバス、トイレ付の2LDK(大画面テレビも装備!)など、突拍子のないものもありますが、数的に一番多いのが、下に示すような、いわゆるスヌーピーの犬小屋タイプのものです。
それぞれ、材料や色にこだわったり、屋根や入口の形を変えてみたり、窓や扉を付けてみたりと工夫のあとは見受けられますが、授業の講評では、「これらは装飾であってデザインとは呼びません!」とバッサリ切り捨てます。「そのネクタイのデザイン、素敵ですね」というように、世間では、デザインを「美しいもの、カッコいいものを作ること」と考えている人が少なくありません。しかしこの授業では、「先行する目的を持ち、さまざまな工夫を凝らし、より高いレベルで目的を達成すること」をデザインと定義します。この定義にかなっていれば、旅行やイベントの計画のように、形を持たないものもデザインと見なすのです。
スケッチの話に戻りましょう。下の2例になると、まだまだ拙いですが、私たちの目指すデザインに近づいてきます。「犬にとって快適な犬小屋ってなんだろう?」とか、「簡単に掃除できると飼い主はきっと喜ぶはず」といった、利用者(犬)の立場に立っての思考の跡が見られるからです。
じつは上の2例は、時間割の都合で2年生になってから受講した学生のスケッチで、このような目的志向型のデザインができる学生は、1年生にはあまり多くはいません。見方を変えれば、共生デザイン学科での1年間の学習を通じて、着実にデザインの基本が身についたといえるのではないでしょうか。
犬小屋を題材に取り上げたのには、もうひとつ意味があります。「どんな犬小屋を作れば、犬は喜ぶのだろう?」という素朴な疑問が生まれたとき、犬に聞いても答えてはくれません。いろいろ勝手な?推測をするしかありません。しかし相手が人間の場合、聞けば答えてくれるのです。という訳で、ここから、デザインのための心理学の本格的授業が始まるのです。
讃井 純一郎(共生デザイン学科)