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教員コラム

2013.10.31 - 共生デザイン学科  鎌倉の「風の道」

鎌倉の街は三方が丘陵に囲まれ、もう一方が相模湾に面しています。天然の要塞のような防御に適した地形であったことから幕府が開かれたといわれています。その鎌倉には、若宮大路という南の相模湾から北に位置する鶴岡八幡宮まで街を背骨のように貫く大通りがあります。兼子ゼミでは、この若宮大路が「風の道」として機能し、夏の暑さを和らげているという仮説を立てて、それを検証しようと昨年度から温熱環境の実測調査を継続しています。
今年の夏も、写真のように鎌倉の様々な場所で、屋外の温熱環境(気温、湿度、風向、風速)を測定しました。その結果、若宮大路に沿って海から涼しい風が流入し、街の暑熱環境が緩和されている様相が明らかになってきています。
少し専門的な話になりますが、水(海)は熱しにくく冷めにくい性質があり、一方、陸地は海に比べ熱しやすく冷めやすい性質があります。そのため夏の天気の良い昼間には、日射により陸地が海よりも高温となり、陸地で暖まった空気が上昇気流を生じます。その上昇気流に伴い海から陸地に向かって空気が流入していきます。この海から陸に向かう風は陸地に比べて低温の涼しい風で、海風と呼ばれます。
鎌倉では、海から街へと向かう大きな道(若宮大路)をつくることで、海と陸地の間で生じる海風を利用し、街の暑さを冷やす工夫がなされているのです。つまり鎌倉の街を築いた先人達は、鎌倉の地形を街の防御に活かすとともに、都市の快適性の視点から「風の道」をつくり、自然を巧みに活用した防暑対策を都市レベルで実現していたといえるのです。
近年、地球温暖化に加えて、都市化によるヒートアイランド現象により都市部は猛暑の灼熱地獄です。鎌倉の街のように、自然のポテンシャルを活用しながら街を快適にする都市デザインに学ぶ必要があるでしょう。

写真:若宮大路で温熱環境の測定をするゼミ生

兼子 朋也(共生デザイン学科)