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教員コラム

2012.11.08 - 共生デザイン学科  応急仮設住宅

東日本大震災と原発事故により、いったいどれぐらいの数の仮設住宅が建設されたのでしょうか?その数はおよそ5万3千戸。仮設住宅というと一般に、写真1のような軽量鉄骨構造のプレファブ式の建物を想像する方が多いと思います。プレファブ型仮設住宅は突発的な災害に対して、短期間で大量に応急的な生活の場を供給できることに大きなメリットがあります。しかし、そこで長期間にわたり生活するとなるとどうでしょうか?暑さ寒さや結露など居住環境性能は必ずしも高いものではなく、その他にも様々な不都合が生じるであろうことは容易に想像できます。加えて、人工的で無機質な四角い箱型の佇まいからは、何か住まいとしての大切なものが欠如しているような印象がぬぐえません。その建物の中では、何か安心感に包まれたり穏やかな気持ちになったり、建物自体に愛着を抱くことなどは、なかなか難しいだろうと思われるからです。
実は、今回の震災ではプレファブ構造の仮設住宅だけでなく、木造の仮設住宅が数多く建設されています。これはこれまでの震災にはなかった新しい特徴的な出来事です。写真2は、福島県いわき市に板倉構法という建築構法で建てられた、柱・梁・壁・床・天井などがすべてスギの無垢材で構成された木造の仮設住宅です。建物ができあがったのは震災後およそ4ヶ月がたった頃。大きな屋根に覆われ、木材を多用したその佇まいからは、何か大きな安心感が漂ってきます。はじめて見た時は「これが仮設住宅?これなら住んでみたいかも。」などと不謹慎にも思ってしまったほどです。
このような木造仮設住宅が導入された背景には、プレファブメーカーを持ってしても、今回必要とされた大量の仮設住宅を短期間で供給することが難しかったこと、東北が森林資源に加えて大工職人などの木造建築に関わる人的資源に恵まれて、木材産業が地域の主要な産業であったことがあります。設計者の安藤邦廣氏(筑波大学教授)によれば、この板倉木造仮設住宅には、
・東北の森林資源と大工職人技術を活かして復興を図ること。
・仮設住宅を使い捨てるのではなく今後の復興住宅に転用すること。
・できるだけ再生可能な資源を用いて循環型の住宅モデルを構築すること。
・東北の農漁村の生活様式の延長にある開放的で近所づきあいを重視する家とコニュニティをつくること。
という思いが込められているのだそうです。
はからずも、切迫した状況の下で生まれた2種類の仮設住宅を通して、「真に人間と環境に優しい住まいとは?」という問いに対する答えの一端を垣間見たように思います。

※なお、兼子ゼミでは、筑波大学の研究チームと協働して、上記2種類の仮設住宅およびその団地がつくり出す居住環境の比較調査をしています。

写真1
プレファブ型仮設住宅(いわき市)
写真2
板倉構法による木造仮設住宅(いわき市)

兼子 朋也(共生デザイン学科)