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教員コラム

2023.07.18 - 共生デザイン学科  ファッションショーで現代社会と向き合う

毎年12月、シルク文化振興を目的にシルク博物館が開催する「シルキークリスマス」に参加するようになって11年。

始まりは2013年、共生デザイン学科の前身、人間環境デザイン学科のときだった。当博物館とやりとりするなかでファッションショーのことが話題になった。服飾研究を専門としながら、ショーは未知の世界。ところがゼミの学生らに伝えると躊躇なく「やりたい!」と言う。想像していた反応とは裏腹にじつは、大学生らしく社会に向けて創造的な活動を発信したいと思っていたのである。博物館からは長尺のシルクが提供され、学芸員の方々のお力添えで独創的な衣装が完成した。

2回目から身に纏ったのは横浜で製造されたシルクスカーフ。
スカーフ製造はかつて、横浜を代表する産業として発展した。捺染工場近くの大岡川や帷子川が染料の水洗で染まるほどであったと言われる。捺染技術の高さから欧米やアフリカ、中東など世界各地に輸出され、横浜はわが国のスカーフ総生産量の約90%を占めた。しかし、めまぐるしく社会が変化するなかで、いまは風前の灯となっている。2018年、第6回目のファッションショーのときには、「かつての『横浜の地場産業』 スカーフの魅力 同世代にもPR」という見出しで、『東京新聞』に記事が掲載された(2018年12月12日、朝刊)。

目指すは「映える」横浜スカーフ。
そのためには、テーマをあえて置かない方がよいというのが学生らの考えであった。そこで、現代社会でよく耳にする話題の言葉をあげてもらうことにした。あがってきたのは「未来」「サスティナブル」「ビンテージ」「エスニック」「ナチュラル」「オルタナティヴ」「スタイリッシュ」「コンテンポラリー」「レトロ」「カラフル」「イケてる」「抜け感」など。これらの言葉を学生なりにロジカルにエモーショナルに捉え、衣装を制作する。そして新しい価値や他者とのつながりについて考えてみようというのだ。異なる柄と柄、色合いや彩度のちがいなどにとらわれずにスカーフを大胆に組み合わせる。学生らはとりわけ「多様性(ダイバーシティ)」の必要性を意識していた。そして「たたむ」「つなぐ」「はさむ」「まく」「たらす」など、簡単な手法で制作した衣装は終わればまた一枚のスカーフに戻っていく。

博物館ホールでの実演から学内での撮影へ。
2020年、世界は新型コロナ感染症パンデミックに襲われた。ファッションショーも感染拡大の懸念からホールでの実演を断念し、学内で実施、映像化することにした。撮影場所の装飾は、2013年当初から協働している空間・インテリア系のプロジェクトが担当、撮影・編集を新たに映像系のゼミに依頼し、快く引き受けていただいた。こうした異なるユニットの連携・協働という実体験そのものが他者とのつながりを考える貴重な機会にもなっている。

そうして今年もまた、ファッションショーの撮影の日がやってきた。
これまでのようにランウェイを歩き、固定カメラで撮影するようなショーにはしたくないというのが、学生らの考えであった。ショーの既成概念にこだわらず「逸脱」、そして「多様性」をキーワードにしたい、と。撮影が終了したいま、さまざまなカメラワークにより撮影された映像が集まっている。これらを素材としてひとつの作品に編集され、12月17日のシルキークリスマスで上映される予定である。

最後に、この11年間、このような貴重な機会をお与えくださったシルク博物館のみなさまに心から感謝の気持をささげたい。