2020.10.26 - 共生デザイン学科 山崎 稔惠 難を転じて福となす
新型コロナウイルス感染症の脅威にさらされるようになって7ヶ月余り——。感染拡大防止と身の安全を護るため,さまざまな対策が講じられ,ワクチンの開発も異例の速さですすめられています。しかし収束する気配はいっこうになく,人びとの不安は募るばかりです。
そんな不安の渦中で急浮上した「アマビエ」を御存知でしょうか。古くから疫病を予言すると信じられ,珍獣・幻獣の姿を見ると除災招福の利益があるとされてアマビエの絵が話題となりました。ユーモラスな姿は鬱屈した空気を和らげ,神社や寺院は疫病退散を願う護符として頒布するようにもなりました。そしてこのアマビエの存在は,いつの世からか人間が災厄や恐怖と共存し共生をやむなくさせられてきたこと,そうしたなかで無事を願い,その切実な思いをなにかに託し,日々暮らしてきたことを再認識させるものでもありました。
共生デザイン学科の1年生春学期の科目に「共生デザイン入門」というオムニバス(輪番制)の授業があります。「デザインの主題」というテーマで模様の意味についてお話しています。そこで今回,取り上げた模様のひとつが「南天模様」でした。南天は赤い実をつける植物で,お祝い事のときに出されるお赤飯にはその葉が添えらますし,テーブルウエアの装飾にも使われます。また江戸時代には火災よけ,魔除けとして庭や玄関先に植えられ,この習俗は今日も日本の各地に残っています。
では,なぜ南天なのでしょうか。これは一種の言葉遊びで「難(なん)を転(てん)じる」に通じるとし,縁起木として愛されたからなのです。江戸時代にはこうした語呂合わせがよくおこなわれました。授業では,当時の南天模様小袖の例を数点,スライドでお見せしました。そして身のまわりのもの,とくにもっとも肌身に近い衣服にそれらの模様がつけられていたことに注目していただきました。
アマビエにしても,南天模様にしても除災招福の科学的根拠などはありません。しかし人間はそこに一縷の希望をつなぎ,困難なことに遭遇しても挫けず乗り越えたいという気持を抱くのです。「ピンチはチャンス!」「難を転じて福となす」というわけです。