2022.09.20 - 共生デザイン学科 立山 徳子 一過性でない若年層の地方移住(日本経済新聞 6月24日朝刊)
新型コロナウイルス禍でのリモートワーク浸透により地方移住が注目された。だがこの傾向は以前から一定数あり、中でも若年層(20~40歳代)の移住は増加傾向にある。地方移住した若年層へのインタビュー調査(2019年)を基に、若年層が都市から地方移住する理由について考えたい。
移住前の都市での暮らしについては「長時間労働」「定年までは無理」「未来が見えない」など就労継続の困難が多く聞かれた。また仕事と生活のアンバランスから「身体の不調」「家族生活との齟齬(そご)」「高い住居費や物価など高コストの生活」が挙げられていた。若年移住者にとって、就労中心の生活は将来への見通しや安心につながらず、都市生活への疑問となっていた。
次に移住後の職業は、①特殊技能による職業(陶芸家、助産師、猟師)②ウェブ環境により就労地の制約がない職業(ウェブデザイナー、デザイナー)③地域資源と密接に関わる職業(農業、グランピング経営、チーズ工房運営)④安価な不動産を利用した起業(カフェ経営、宿泊・飲食業経営、シェアハウス経営、ペットホテル、ホース・セラピスト)――など、いずれも地方居住が不利に働かないものである。また多くが被雇用者から事業主へと就労スタイルを変えており、結果的に「仕事時間のコントロール」「時間のゆとり」を実現していた。
また彼らは地方居住に可能性や価値を見いだしている。第一に地域資源への視点がある。空き家・空き店舗・古材・廃材などのモノ、野生動物・竹林などの天然資源、里山・里海などの景観、祭り・伝統工芸・地場産業などのコトは、いずれも「そこにしかない資源」と映っている。第二に新しい働き方(短い通勤時間、家族のそばで働く、必要以上に働かない)の実現。第三に子育て環境としての可能性(ほとんどない待機児童問題、豊かな自然)。第四に起業・事業運営における低コスト・リスク分散(安価な初期投資や運営の低リスク)が指摘されていた。
若者にとって地方移住とは、都市とは異なる仕事・暮らし・人間関係の再構築である。コロナ禍の一過性のものではなく、注目していく必要があるだろう。