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教員コラム

2024.04.09 - コミュニケーション学科  テクノロジーがつなぐ外国の言葉

「Talk to this.」
夜の台湾、瑞芳駅のホームで、駅員さんが差し出したのはスマートフォンだった。

赤いランタンで知られる、美しい街である九份をゼミ生たちと訪ねた後、私は台北駅からもう一度、九份最寄りのこの駅に戻ってきたところだった。落とし物があったのだ。
台北駅のインフォメーションでは英語が通じたし、私も中国語の筆談は少しできたので、幸い落とした物を見つけてもらったし、取りに行く旨を電話で伝えておいてもらうことができた。ホームに到着すると、駅員さんが一人待っていてくれたが、どうやら英語はあまり話せないようだ。一方、私は英語は話せるが、中国語はカタコト程度。そんな状況で、スマートフォンが登場したのだった。

「ホームのベンチで、黒いデバイスを落としました。それを取りに来ました」

余計な修飾語を省くことを意識して、単純な文章を口にした。翻訳された文章がすぐに繁体字で表示される。いったん奥に戻った駅員さんは、その「黒いデバイス」を持ってきてくれ、身振りで書類にサインするように示した。書類の細かいことを確認する度にスマートフォンが登場した。

話し言葉であれば音声認識、書かれた文字であれば写真の中から文字を認識して読み取り自動翻訳するサービスの発展はめざましい。意図どおりに訳してもらうためには、元の文をシンプルにしたり、訳文を見直したりする必要はあるけれど、思いがけない事態に外国語で対処するときには人工知能(AI)の支援は非常に有用だ。以前、マレーシアのクアラルンプールで急病で病院に駆け込んだときも症状を伝える英単語が思い浮かばなくて、翻訳アプリに助けられたのだった。

落とし物は無事に手元に戻ってきた。

「謝謝!」

ありがとう、という言葉はスマートフォンを通さなくても、言えた。この言葉だけは、多くの言語で覚えておきたい。

夜の瑞芳駅

 

九份のランタン