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教員コラム

2011.06.09 - 共生デザイン学科  同潤会アパートメント

表参道ヒルズは、表参道に面して建つ商業ビルである。設計は安藤忠雄。世界に名を知られた建築家である。この表参道ヒルズの一角に、ちょっとレトロな建物がある。かつてここにあった同潤会青山アパートメントの1棟を復元した建物だ(写真1)。安藤は、同潤会アパートメントがかつてここにあった(写真2)ことを表現するために、事業者を説得し1棟だけ復元した。同潤会アパートメントがさほど重要なのには訳がある。

「同潤会アパートメント」。関東大震災のあとに、都市の新たな居住形式の提案を目指し、東京と横浜に建設された鉄筋コンクリート造の集合住宅である。ごく一部の例外を除いて、それまでは、鉄筋コンクリートの集合住宅は日本人のすまいの選択肢ではなかった。都市化が進展し、都市における新たな住まい方が求められていた時代でもあった。関東大震災後、震災復興のための義援金によって、新しい住宅形式の導入が模索された。そして、様々な共有施設も整った理想の集合住宅、同潤会アパートメントハウスが建設された。集合住宅に住むことは私たちにとって、ごくごく当たり前の選択肢となった。

3月11日、東日本大震災が起こった。それまでの何げない日常が一瞬にして失われ、多くの大切な命や場所が失われた。この事実を見続けることは辛いが、でも、わたしたちは、その悲しい現実を見なくてはいけないし、先に向かって歩かなくてはいけない。そのときに、この同潤会アパートメントハウスや、2DKの住居(第2次世界大戦の跡に住生活の秩序を求め提案された。)など、災禍の跡に生まれた新しい住まいの姿を思い起こす。

住まいは、命をそして家族の日々の生活を育む器である。今こそ、地球にも優しく、人間にも優しい新しい住まい、住まい方を真剣に考え実践する時である。「人間環境デザイン」という我が学科の名称は、そのためにあるのだと実感する今日この頃である。

写真1 安藤忠雄設計の表参道ヒルズ 写真2 ありし日の同潤会青山アパートメント

水沼 淑子(共生デザイン学科)