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教員コラム

2021.05.27 - 共生デザイン学科  空間デザインとコミュニティデザイン④:瀬戸内海の「しまなみ海上列車」プロジェクト(その②)

「しまなみ海上列車」は、離島をはじめとする瀬戸内エリアの港湾を有効活用し、地域に生活必需サービスや賑わいを創出するための仕組みとして提案しました。

しまなみ海道は、広島県尾道市と愛媛県今治市とを結ぶ本四連絡橋の一つです。2009年に開通10周年を迎え、愛媛県今治市主催でイメージアップのための企画案公募のコンペティション「しまなみ海道10thアニバーサリー企画提案公募」が行われました。

(審査委員長:伊藤豊雄、審査員:北川フラム、ひびのこづえ、グエナエル・ニコラ、今治市長)。

しまなみ海道のイメージアップというテーマに対し、我々は、ある意味で他案とは全く逆のアプローチをとりました。例えば、しまなみ海道を今治市特産のタオルと関連させて装飾するなど、ほとんどの案は、しまなみ海道を肯定的にとらえるところからスタートしていました。

一方で我々の提案は、しまなみ海道という高速道路によって、豊かな多島海の景色を楽しむことなく島々をただ自動車で通過してしまっている現状に異を唱えるものでした。

嘗て集落の中心であった港の再生がテーマです。

現在はモータリゼーションによってすたれ、廃港も目立つ港。この港を中心とした活動を充実させ、減便が相次ぐ水上交通を見直すことで、集落の中心に活気を取り戻し、水辺の環境を身近に体験できる仕組みを提案しています。台船などを連結させてタグボートで引き、様々な生活必需サービスを積んで、島々を訪れ、港で展開して人々に生活の潤いを与える仕組み、「しまなみ海上列車」。この「しまなみ海上列車」と、しまなみ海道というスーパー陸上交通とを複合させることで、より多くの選択肢を交通と生活利便性、環境や地域経済の面から拡張しようとする提案として高い評価をいただき、最優秀賞を受賞することができました。

画像2枚はコンペに応募した際のパネルです。

船舶は、すでにかなり自動運転化が進んでいる乗り物です。航空機同様に、オートパイロット機能が発達しており、GPS情報などを元に、定められた航路を、潮流や風波などを補正しながら進むことができます。この特徴を利用して、少ない乗組員で、複数の島々を移動するトレイン型に連結された船団である「しまなみ海上列車」は、瀬戸内の穏やかな風景に似合いそうです。

リサーチに当たっては、離島などを巡り、そこで実際に進んでいる過疎の状況を目の当たりにしました。店は無くなり、公共施設は閉鎖され、病院などの医療も十分ではありません。そんな島々に、週に1度でもこうした移動巡回型のサービスが訪れることで、まちがずっと住みやすいものになれば、そんな願いからの提案です。「しまなみ海上列車」が運んできて、港に展開するのは、診療所や健康診断、図書館や海上ギャラリーなどの文化プログラム、役場などの出張サービスや海上カフェ、海上マーケットなど、アイデア次第で様々な可能性があります。

アイデアコンペなので、最優秀賞を受賞したからといって、実現されるとは限りません。

しかし、せっかく頂いた評価とチャンスなので、いただいた賞金などを使って、その後も島を訪れ、地元の人々と交流しながら幾つものワークショップを、12年が経とうとしている現在でも、繰り返しています。この間、船舶はさらに減便が進み、離島の過疎化はさらに進行しています。

たまたま友人が移住したことがきっかけで、継続してワークショップを行っている愛媛県の離島、上島町弓削島で、このコンペティションをきっかけに、いくつかのプロジェクトが進行し、実現することになりました。次回のコラムでは、これらのプロジェクトについてご紹介したいと思います。