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教員コラム

2020.07.03 - コミュニケーション学科  ソーシャルディスタンスと人の心理

新型コロナウィルス感染防止対策として、3密を避ける、ソーシャルディスタンス(社会的距離)を確保するといった言葉をよく耳にしています。3密とは、1)密閉空間(換気の悪い空間)、2)密集場所(多くの人が集まる場所)、3)密接場面(互いに手を伸ばしたら届く距離での会話や発声をする場面)を意味しています。ソーシャルディスタンスとは、飛沫感染を防ぐために相手と一定の距離をとることであり、大体2m程度の距離であると主張されています。

心理学では、パーソナルスペース(個人空間)という言葉があり、他人に近付かれると不快に感じる空間のことです。対人距離とも呼ばれています。たとえば、電車のなかで、席がたくさん空いているにもかかわらず、ある人が自分の隣に座ったら、違和感を生じてしまいます。それは自分のもつ空間が侵害されたからです。人と人の間に適切な距離が求められており、物理的距離と心理的距離によって大きく4つに分類されています。1)親密距離:45㎝以内、相手の匂いや体温が感じられる距離、親子、恋人、夫婦がこの距離にいることが許されます。2)個体距離:45~120㎝、手を伸ばせば触れることができる距離、親しい友人同士の会話でとられる距離です。3)社会的距離:120~360㎝、フォーマルな会談や社交の集まりの距離。4)公衆距離:360㎝以上、講演会などでの講師と聴衆の距離です。コロナ感染防止対策で求められているソーシャルディスタンスは対人距離のなかの社会的距離にあたります。

なぜソーシャルディスタンスの確保が呼びかけられているのか?それは、物理的距離と心理的距離の許容範囲は外部の環境や状況によって変わってしまうという特性があるからです。たとえば、知らない人と同じエレベーターに乗るときに、社会的距離が満たされていないのに、不快感はほとんど生じないといった経験があるでしょう。また、スーパーや飲食店、公共交通機関などの場所でも同様に感じられています。固定されている空間のなかで活動している人々の心理的許容距離がそれによって縮まってしまうことがその原因だと考えられます。通常の場合はほとんど問題がないのですが、コロナ感染拡大のリスクがある状況においては、やはり人との接触に社会的距離を確保することが有効な対策であり、日常生活のなかで意識しながらその距離を保つように心掛けることが必要となるのです。

一方、ソーシャルディスタンス確保論に反対する声も上がってきています。本来親密距離での親族と個体距離での友人は、このような状況では、いずれも社会的距離を保つ相手となってしまい、過剰に自粛していれば、人間同士間の心の距離が次第に拡大されてしまうことが危惧されているようです。「新しい生活様式」が推奨されているなか、いかに感染防止対策としてのソーシャルディスタンス確保と人々の交流を対立させないか、これから取り組むべき課題となります。