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教員コラム

2014.05.15 - 共生デザイン学科  最近の研究紹介

今回は、私の研究のことを少し紹介したいと思います。

この数年間、私は国立歴史民俗博物館で共同研究を行ってきました。研究テーマは「歴史表象の形成と消費文化」です。明治末頃から日本では、古き良き時代として江戸時代の頃を懐かしむような風潮が強まります。元禄や光琳が再評価され、また一時衰退していた七五三や雛祭りといった風習も復活します。しかしながらこのような伝統の復活は、百貨店などの戦略による「創られた伝統」だったといえます。これは、近年の節分の恵方巻販売の流行がコンビニなどから広まっていくなど、消費社会の中で変わらず続いている傾向といえるでしょう。近代初期に歴史的過去としての江戸文化が、消費の中でどう活用されていくのか、歴史学、美術史学、デザイン史学、経済学、民俗学などの研究者が集まり、皆で博物館調査、資料室調査などを続けました。異分野の研究者との交流は、自分にこれまでなかった新しい視点を与えてくれ、とても刺激になりました。

その中で私は「消費文化における趣味の大衆化」というテーマに取り組み、明治から昭和初期にかけて、一部の特権的な人々の趣味が商品や情報を介して中間層に広まっていく様子について、調べました。近代初期に人形玩具が大々的に扱われたのは、子どものため、雛祭り復興のため、という理由だけではありませんでした。ここには今日でいう「オタク」的な趣味人、すなわち大人による人形玩具収集趣味の影響が色濃く表れていたのです。この趣味が、購入可能な商品を通してどのように大衆化していくのか、その商品デザインの特徴を詳しく調べていくと、現代のデザインにも通じる問題がたくさん見えてきました。

モダンデザインの論理だけでは語れない、非合理的で無意味なデザインの背景を調べるのが、私の主要研究テーマです。一見するとくだらないモノに隠された意味を解き明かしていく面白さを、この共同研究では再認識することになりました。

今回の共同研究の成果は、一部歴博の総合展示第四室にも反映されています。神奈川からは少し遠いですが、充実した博物館ですので、時間がある時に是非のぞいてみてください。

田中本家博物館調査より
左:アールヌーボーと元禄模様の混ざった呉服柄
右:雛人形「紫宸殿飾り」
←研究成果はシンポジウムでも発表

神野 由紀(共生デザイン学科)