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教員コラム

2023.10.20 - 共生デザイン学科  ものつくりの意義とは - 革小物制作実習 –

昨今の社会は情報中心で以前に比べると手肌感覚の通った物事に触れる機会が少なくなっているようです。淡野ゼミナールではモノやコトに触れる機会を多く持ち、その体験でしか得られない“気づき”を目的としてゼミナールを運営しています。どんなに技術が発達して社会が自動化したり簡略化していっても、人間一人一人が物事をよく考え、その結果自分たち自身で何かに気づき行動していかなければ物事は進んでいきません。そして願わくば、そうした物事は善なる方向に進んでいくことが望ましいでしょう。ささやかな営みを少しづつでも紡いでいく先には善なる方向が開けていきます。それは営みを紡ぐことでしかその一つ一つの営みの尊さは理解できないからです。手肌感覚が少なくなっている今だからこそ、こうした実習の必要性はむしろ高まっているといえます。

本学は総合大学ですので美術大学のように日々“制作漬け”ではありません。在籍している学生さんの多くは専門の教育を受けて来た訳ではありませんので、いわば初心者ばかりです。よく聞く「不得意」と言われる人の多くは“単にあまりやったことがない”か、やり遂げる前に“途中でやめた”というような人が多い様です。つまり、うまくいかなくても(恥ずかしがらず)頑張って完成させる、ということを何度か行えば、どんなに「不得意」だと思っていた人でも相応に上達し「またやってみたい!」と思うものです。何より具現化できる能力が身につくことで自信がつき、次はその表現をどう物事に活かすべきか、という事柄に気持ちが進んでいくのです。つまり実行の伴う問題解決力が体得されていく、ということなのです。

さて、本ゼミナールでは前述した通り多くの演習授業を実施しますが、その中で春学期(前期)と秋学期(後期)にそれぞれ1回づつ「基礎デザイン演習」でもご一緒している非常勤の影山先生を招聘し「革小物制作実習」を実施しています。影山先生は私と同じ東京芸術大学の出身で革作品の個人ブランドを展開されておられます。この記事が掲載されるころには秋の実習は終えていますが(執筆時はその前なので)春に実施した実習をご紹介しましょう。

本実習は3・4年ゼミ生全員参加で実施します。春に行われた実習では「ペンケース」を制作しました(ちなみに秋に実施するのは「スマートフォンショルダーケース」です)。普段は課題としての演習が多いのですが、革講習では実生活で即使用できる身近な小物ですから学生さんたちの取り組み方(喰いつき)も熱心そのものです。あらかじめ提供された資料に基づいて各自がデザイン案を考えてきたものをチェックします。デザイン案といっても、全体にわたる大きなデザインではなく、閉じる被せのカタチや、その閉じ方(革紐でぐるりと閉めるのか、バネホックというもので閉じるのか、等といった)を考える程度からはじまりますので、難易度はさほど高くはありません。大切なことは、紡ぐ様に地道にしっかりと作り上げる(完成)ことです。

作業がはじまると熱気に包まれ、皆でワイワイとはなりますが、ガヤガヤとはなりません。それだけ皆が作業に集中するのです。ものつくりにはそういうチカラがあるのです。学生は皆各々のライフスタイルがありますから、その生活の中で使用するシーンを想像して、その使いやすさ(機能性)を考えながら作っていきます。途中でうまくいかなくても、その場で教員が丁寧に指導し制作上の問題解決をはかります。こうして「不得意」と思っている学生さんも含め皆完成させることができました。この経験は必ず次に繋がっていきます。