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教員コラム

2021.09.22 - 共生デザイン学科  本の購入のきっかけがカバーデザインであったということはないでしょうか

夏目漱石は『吾輩は猫である』の序文で、自分が書いたものが自分の思うような体裁で世の中に出ることが出版を促すに充分な動機であるとのべています。『こゝろ』にいたっては自身で手がけているほどですから、いかに装丁に思いを寄せていたかがわかります。

歴史を振り返ってみれば、書物が巻物から冊子本に変わると、製本・装丁がたいへん重要になりました。その背景にはキリスト教があり、神の言葉とされる聖書を教会で大切に保存する必要が生じたからです。信仰の証として豪華に装丁された聖書が組織的に制作されました。やがて15世紀にグーテンベルクが印刷術を発明すると、書物は特権階級の耐久消費財ではなくなりますが、むしろそのことが工芸的製本を推し進める要因になりました。つまり多数の同じ本が存在するなかで所有者の個性を強調する装丁が生まれたのです。その後、覇権をめぐる政治闘争や宗教戦争により、製本・装丁のありようも少なからず影響を受け、複雑な道を歩むことになりました。

18世紀末になると産業革命により、書物の世界は変化の時代を迎えます。工業化の進展により大量生産が可能となり、多くの人の手に届くものになりました。とはいえ特定の書物や蔵書を他から際立たせ、価値を引き上げるための豪華な製本は廃れず、他方で時代の趣味を反映した質の高い版元製本も登場しました。

共生デザイン学科の学芸員課程3年生による博物館実習の一環としてブックデザインの展覧会「本の表と裏 装いの景色」を開催中です。会期は2021年7月13日より10月12日、大学図書館分館との共催です。本学図書館と個人が所蔵する18世紀後半から20世紀初頭に出版された書物を紹介しています。

電子ブックの需要が高まる今日ですが、この機会にぜひ、美しい装丁の世界を訪れてみてください。

 

課程学生制作による展覧会ポスター

 

19世紀中葉フランスで出版された本の装丁(総革製、箔押し、三方金)

 

19世紀中葉フランスで出版された本の装丁(半革装、マーブル染)

 

蔵書票:所有者を明示するために作られた美術小紙片