MENU

教員コラム

2013.12.26 - 共生デザイン学科  『可愛い』?交通標識

今夏、家族と共にフィレンツェを訪れた際に出会ったのが、この交通標識です。最初は、誰かのいたずらかと思いましたが、歩くにつれ、さまざまな絵柄のユニークな標識が次々に出現。しかも標識の内容、設置のされ方を考えると、どうも本物の交通標識としか思えないのです。「フィレンツェの警察はずいぶん「粋」だなァ」というのが私の第一印象。そんな私の傍らで、家人と娘は「かわいい!」を連発。

じつは今年度から、日本建築学会の中に、『「可愛い」を求める心と空間のあり方に関する研究WG(略称、可愛い空間研究会)』が設置されました。ずいぶんくだけた名称の委員会ですが、環境心理小委員会の傘下に設置された、れっきとした学術委員会で、「可愛い」の意味や効果、建築空間との関連、「かわいいデザイン」の技術的発展などについての検討を行うことをミッションとしています。そんな委員会のメンバーの一人としては、家族をして「かわいい!」と言わしめたこの標識を見逃すわけにはいきません。

帰国後さっそく調べてみると、これらの標識は、フィレンツェを拠点に活動している“CLET”というアーティストの、アングラ・アートであることが判明しました。彼のHPを見ると、他にも数多くの作品が紹介されています。ぜひ“CLET Florence”で検索してみてください。さらに情報を集めてみると、どうもこれらの標識はあくまでも黙認されているだけで、CLET氏自身、罰金を科せられたこともあるそうです。

ところで、我が家族は、なぜこれらの標識を「かわいい」と表現したのでしょうか。私は次のように考えます。この標識の「かわいさ」は、伊藤若冲の描いた虎のそれと同じ。すなわち、本来、強いもの、恐ろしげなものが、ふと見せる優しさ、温かさに由来する「可愛い」に近いのではないか。いずれにしろ、これら「可愛い」標識たちは、権力のもつ居丈高な印象を和らげ、都市空間を暖かいものにしてくれているように思います。こんな包容力のある社会、ちょっとうらやましくありませんか。

「可愛い空間研究会」でのこのような議論がある程度まとまったあかつきには、ぜひ授業やゼミでも紹介しようと、虎視眈々、「可愛い」ものや空間を探し、分析しているところです。

讃井 純一郎(共生デザイン学科)