「京急ルーム」の提案
神野ゼミナールでは、通常はデザインに関する個人研究を進めていきますが、合間に3・4年生合同で共通課題に取り組んでいます。
昨年秋からは、三浦海岸の「マホロバマインズホテル三浦」のコンセプトルームを企画する活動を始めています。初年度のお題は京浜急行をコンセプトにした「京急ルーム」です。京急から実際の車両部品などを提供していただき、本格的な空間を考えました。学生たちが一人ずつ考えたアイデアをひとつにまとめた基本コンセプトが「海に向かって走る列車=京急」です。都心から出発して横浜の郊外を抜け、海に向かってひたすらまっすぐ進む京急のイメージを客室空間で表現しました。マンションのようなコンドミニアム式の素晴らしいオーシャンビューの室内を活かして、玄関から廊下、リビングへと続く細長い空間を列車内に見立て、それが次第に都会から海へと向かっていく旅の様子を表現しました。ICタッチの改札口にはじまり、車窓の変化する景色、さらには「音」を使って海に向かう臨場感を表しています。京急で少し前までに使われていた「ドレミファインバーター」の音で出発し、都会の喧騒の音、郊外の子供たちの声、そして最後に到着したリビングでは、波音とカモメの鳴き声が広がるというサウンドスケープをデザインしました。そのほか、ホテルと京急をコラボさせたキャラクターや、大人も子供も楽しめるプラレールコーナーなど、「鉄道マニア」も「親子」も楽しめるような部屋を目指しました。これらの提案は、今年秋には実際にホテルのコンセプトルームとしていくつか採用していただけるそうです。



ゼミナール研修旅行
神野ゼミナールでは毎年夏休みに3・4年生全員でゼミ合宿を行い、取り組んでいる共通課題について集中的にディスカッションをしています。これとは別に、春休みを使って日本のデザイン文化の歴史を学ぶためのゼミ研修旅行を企画することがあります。この数年、コロナの流行もありお休みしていましたが、ようやく研修旅行も復活することができました。
この2月に京都に3日間、ゼミの学生たちと行ってきました。風花が舞う厳しい寒さでしたが晴天続きで、心配していたオーバーツーリズムの影響も全く見られず、ゆったりと冬の京都を体験することができました。これまでゼミで学び、学会でも発表した学生たちは、京都で室町、江戸、明治、昭和初期の庭園を時系列に見学し、日本でモダンデザインが日本の伝統的な美と重ね合わせて評価されていったことを思い出しながら、実際にそれを追体験しました。
お庭巡りに偏ったので、智積院の長谷川等伯の障壁画も見ることにしました。等伯一門の作品を展示してある宝物館には私たちしかおらず、かなり時間をかけて鑑賞することができ、国宝作品を独り占めしたような贅沢な時間を過ごしました。館内では大書院の上段の間が再現され、当時障壁画がどのように空間内にどのような配置で描かれていたのかがわかり、空間の一体感をリアルに体験できました。
合間には和菓子作り体験や町屋レストラン巡りなども楽しみ、とても充実した3日間になりました。

プロジェクト科目での取り組み
人間共生学部のスタート時、プロジェクト科目は学部の重要な科目として設置されました。大学のキャンパス内での学びだけでなく、それを学外の具体的なプロジェクトの中で実践的に学ぶというスタイルは、従来の演習・実習科目を持つ教員だけでなく、講義科目のみを持つ教員にも新しい取り組みに参加する機会を生み出しました。
実は私自身、この科目がスタートする以前から、食のデザインディレクションを学ぶという「食文化のデザイン演習」という授業を担当していました。私は文系の研究者なので、講義科目中心に担当していましたが、それを何か社会の活動と関連づけて展開することはできないか、という気持ちからこの科目を立ち上げました。
これまで、茅ヶ崎市の「ちがさき牛」や三浦半島の「高梨農園」など、近隣エリアの畜産業物や農産物を、デザインの力によって都心に住む人々にどう伝えることができるか、という課題に取り組み、ロゴマークや移動販売用什器、フェイスブックでの連載など提案してきました。
そしてこの数年は、茅ヶ崎で有機農業を営まれているChigasaki Organic Farmとの連携課題に取り組んでいます。今年の課題は農園で収穫された三州生姜を、カフェでどのように利活用できるかということで、熊澤酒造の「mokichi cafe」とも連携を行い、カフェメニューの提案を考えているところです。2つの世界観を理解しつつ、両者をつなげる企画になるよう、学生たちはやや高度な課題に、試行錯誤を繰り返しています。このメニューについては、7月20日にカフェで開催されるイベント「はたけとつながるカフェ」にて、お披露目をする予定です。


サバティカル研究期間を終えて
2022年度、1年間のサバティカル研究期間を過ごさせていただきました。コロナ禍で1年遅れ、依然コロナの流行が終息していない中でしたが、それでも本当に久々に充実した時間を過ごすことができました。1年間は国立歴史民俗博物館の研究員として、研究に専念しました。研究課題は「近代消費社会と趣味の大衆化に関する研究」です。
私は長年、普通の人々の趣味のデザイン表象についての研究をしてきました。近年では特にインテリアデザインに着目し、デザイナーではない素人が、どのようなデザインの実践を行ってきたか、調べています。研究期間、国内では千葉の歴博だけでなく国会図書館にも頻繁に通い、また秋にはロンドンでの調査も行いました。大英図書館、V&Aアートライブラリーなど、連日の図書館に通いは、まるで大学院生に戻ったようでした。イギリスでは19世紀末頃から多くの女性向けインテリア雑誌が刊行されています。とても面白くて、古い雑誌を手が真っ黒に汚れるのも忘れて見ていました。この年齢になっても、知的好奇心はまだ衰えていないと、ひそかに嬉しく思いました。物価の高さには閉口しましたが、秋のロンドンは気候も快適でした。
このような貴重な機会を与えてくださった大学に感謝するとともに、新しく得た知識は今後学生たちにも還元できるようにしたいと思っています。


「くらしを研究する」とは?
私の専門はデザイン学です。人々がどのようなデザインのモノに囲まれ、どのような趣味嗜好でそれを選択しているのか、特別なデザイナーの趣味ではなく、ごく普通の人々の暮らしとそこに存在するモノについて、歴史的・文化的な研究を続けてきました。このような生活にまつわる研究は民俗学や文化社会学、文化人類学、生活学など、色々な領域で行われていますが、デザイン学もまた、この生活研究のひとつのアプローチとして有効です。しかしデザイン学、デザイン史学ではこれまでデザイナーの作品や作家の研究が多く、「くらしの研究」は比較的新しいため、まだきちんと方法論が確立されていません。普通の人々の暮らしに着目したとき、やはりデザイン学研究においても社会学や民俗学といった他の領域の手法を積極的に用いることが重要になってきます。
12月11日に、お茶の水大学主催のシンポジウム「くらしを研究する-衣食住のデザイン学、その方法論」がオンラインで開催されます。基調講演では「日常生活のデザイン文化史研究」と題して、こうした暮らしに関するデザイン文化史研究の現状を、私自身のこれまでの研究もふまえて紹介したいと思っています。誰でも参加できるオンライン開催なので、関心のある方は是非お気軽にご参加ください。
コロナ禍での展覧会の在り方について
コロナによる影響は、展覧会開催のスタイルも変えています。美術館・博物館に足を運んで直に作品を鑑賞できるというのが展覧会の一番の楽しみであるといえます。昨年はオリンピック開催予定だったこともあり、日本美術・文化に関するかなり大規模な展覧会が企画されていましたが、多くの美術館が企画の延期を余儀なくされ、その後も事前予約制など工夫しながら来場者を制限しています。その一方で、実施できなかった展覧会については「オンライン展覧会」というスタイルで、少しでもその内容を伝えようと学芸員の方たちの努力が続いています。
共生デザイン学科の学芸員課程では毎年、実際に学科の所蔵する作品を中心とした展覧会を企画するという演習授業を行っています。今年度の企画展は「世界のモダンデザイン―椅子と照明を中心に―」というタイトルで、現在図書館分館2階で開催しています。図書館は開館を続けていたので、本展覧会も無事開催にこぎつけましたが、実際に椅子に座って照明の具合などを試せる企画とあって、正直オンライン開催になってしまっていたら、限界があったと思います。会期は1月26日までですので、図書館に立ち寄った際には、是非学生たちの成果をご覧ください。
また、共生デザイン学科では毎年2月に卒業研究をはじめとする学修成果を展示する学科展を開催しています。こちらは今年度、オンライン開催になります。詳細は準備ができましたら学部HPで案内します。

多様化する若者の趣味世界
私の長年の研究テーマの一つが「趣味をめぐるデザイン文化論」です。日本語で趣味という語は、「良い趣味(テイスト)」、すなわち優れた感性を指す場合と、個人が熱中する「娯楽、道楽(ホビー)」を指す場合があります。近代社会の中で、多くの人々がより良い趣味を手軽に得ようと、消費活動を行ってきました。しかし大衆消費社会の中では、趣味は多様なホビーという意味の方が強くなっていきます。皆が必ずしも絶対的な良い趣味を目指すようなことはなく、それぞれのホビーに親しむことで満足しています。特にこの数年、手作りという趣味が現在に至るまで人々に愛好され、男女それぞれに分化していく様子を共同研究してきました。その成果は今年、『趣味とジェンダー』(青弓社)として出版されました。
個人の好きな世界で、共有できる人たちの間で何かを熱中するという島宇宙化した世界は、今日いたるところで見られます。そこで得られた達成感や、得られた仲間は、その人の仕事や学校といったパブリックな場所よりもずっと重要なものになっています。私のゼミ生の卒業研究でも毎年、趣味の世界をテーマにした論文がたくさん生まれています。皆自分が熱中している趣味を足掛かりに、それを学術的な問題関心へとつなげていきます。漫画やアニメ、古着ファッション、キャラクター収集、アイドルオタクなどに始まり、飛行機マニアや特撮ヒーローに至るまで、彼らの趣味の範囲は幅広いです。自身の趣味を研究にまとめあげていくことで、自らの趣味の世界を客観化して捉えなおすことができているようです。

若者と日本酒文化
若い人のお酒離れが進んでいるといいます。昔のようにお酒を強要されることもなくなり、無理しないで飲みやすいサワー程度を楽しむという人が多いと思います。スマホなどにお金がかかり、お酒を飲む余裕などない人もいると思います。いつの間にか、お酒はよくない、悪者になっていることもあります。ただ、社会のルールを守り、健康に配慮した適度な飲酒は、良好なコミュニケーションを築くのを助けるだけでなく、その地域の文化・伝統を知るという意味でも、決して悪いことではありません。
神野ゼミナール(3年生、4年生)では、日本酒の文化を若い人に知ってもらいたいという渋谷の日本酒割烹の要望を受け、昨年度からお店のリニューアルと、日本酒を広めるデザイン企画を行っています。若い女の子が入りやすく、そして少しずつでも日本酒の奥深さを楽しめるように、お酒を注文するときに役立つテーブルマットのデザインや、適した酒器のデザインをわかりやすくまとめたパネル製作などに取り組んでいます。この春学期には、自分たちでイメージしたお酒に合う酒器を、キャンパス内の陶芸施設で製作するという試みにも挑戦しました。
日本酒を知ること、それをデザインで伝えることは、食文化だけでなく、伝統工芸など様々な日本文化を学ぶことにつながっています。


ゼミナール京都旅行
神野ゼミナールでは、春休みを使って京都旅行を計画します。今年も2月、雪の降る中、学生10名を連れて行ってきました。
旅行では、予約をしないと見られない京都の寺社、庭園をゆっくりと見て回ります。
日本の伝統美に直に触れて、授業で学んできたモダンデザインと、日本の美がある共通点を持っていることなど、学んでいきます。両者の関連性は昭和のはじめ、「日本的なるもの」とは何かが問われるようになると、より強調されていきます。今、日本ではオリンピックを控えて、再び日本的なるデザインが議論されていますので、学生にとっては丁度よい機会だったと思います。
今回の一番の目的は、特別公開していた大徳寺の聚光院の襖絵を見ることでした。普段は美術館で横一列に展示された襖絵ですが、お寺の中で実際に使われていたのと同じ場所に設置された状態で見学することで、襖で囲われた三次元の空間を意識した構図の意味などが非常によくわかり、面白かったです。
↓大徳寺では、モダンデザインの作庭家・重森三玲の庭なども見学しました。

名物和尚さんの説教を神妙に聞く、ややヤンキー風のゼミ生たち↑
京都の市内では、いたるところに町屋を改造したカフェやレストランがあり、その数は一段と増しています。そうした歴史的な資源の利活用についても、あまりに商業的になっている現状も批判しつつ、その活用方法について、食事を楽しみながら学びました。
学生たちの多くは、中学高校時代の修学旅行で京都に来たことがあったものの、大学でデザインを学んで、デザインを見る目を養ってから訪れた京都では、初めての京都とは異なる新鮮な発見がたくさんあったようでした。
神野 由紀(共生デザイン学科)
