ファッションショーで現代社会と向き合う
毎年12月、シルク文化振興を目的にシルク博物館が開催する「シルキークリスマス」に参加するようになって11年。
始まりは2013年、共生デザイン学科の前身、人間環境デザイン学科のときだった。当博物館とやりとりするなかでファッションショーのことが話題になった。服飾研究を専門としながら、ショーは未知の世界。ところがゼミの学生らに伝えると躊躇なく「やりたい!」と言う。想像していた反応とは裏腹にじつは、大学生らしく社会に向けて創造的な活動を発信したいと思っていたのである。博物館からは長尺のシルクが提供され、学芸員の方々のお力添えで独創的な衣装が完成した。

2回目から身に纏ったのは横浜で製造されたシルクスカーフ。
スカーフ製造はかつて、横浜を代表する産業として発展した。捺染工場近くの大岡川や帷子川が染料の水洗で染まるほどであったと言われる。捺染技術の高さから欧米やアフリカ、中東など世界各地に輸出され、横浜はわが国のスカーフ総生産量の約90%を占めた。しかし、めまぐるしく社会が変化するなかで、いまは風前の灯となっている。2018年、第6回目のファッションショーのときには、「かつての『横浜の地場産業』 スカーフの魅力 同世代にもPR」という見出しで、『東京新聞』に記事が掲載された(2018年12月12日、朝刊)。

目指すは「映える」横浜スカーフ。
そのためには、テーマをあえて置かない方がよいというのが学生らの考えであった。そこで、現代社会でよく耳にする話題の言葉をあげてもらうことにした。あがってきたのは「未来」「サスティナブル」「ビンテージ」「エスニック」「ナチュラル」「オルタナティヴ」「スタイリッシュ」「コンテンポラリー」「レトロ」「カラフル」「イケてる」「抜け感」など。これらの言葉を学生なりにロジカルにエモーショナルに捉え、衣装を制作する。そして新しい価値や他者とのつながりについて考えてみようというのだ。異なる柄と柄、色合いや彩度のちがいなどにとらわれずにスカーフを大胆に組み合わせる。学生らはとりわけ「多様性(ダイバーシティ)」の必要性を意識していた。そして「たたむ」「つなぐ」「はさむ」「まく」「たらす」など、簡単な手法で制作した衣装は終わればまた一枚のスカーフに戻っていく。
博物館ホールでの実演から学内での撮影へ。
2020年、世界は新型コロナ感染症パンデミックに襲われた。ファッションショーも感染拡大の懸念からホールでの実演を断念し、学内で実施、映像化することにした。撮影場所の装飾は、2013年当初から協働している空間・インテリア系のプロジェクトが担当、撮影・編集を新たに映像系のゼミに依頼し、快く引き受けていただいた。こうした異なるユニットの連携・協働という実体験そのものが他者とのつながりを考える貴重な機会にもなっている。

そうして今年もまた、ファッションショーの撮影の日がやってきた。
これまでのようにランウェイを歩き、固定カメラで撮影するようなショーにはしたくないというのが、学生らの考えであった。ショーの既成概念にこだわらず「逸脱」、そして「多様性」をキーワードにしたい、と。撮影が終了したいま、さまざまなカメラワークにより撮影された映像が集まっている。これらを素材としてひとつの作品に編集され、12月17日のシルキークリスマスで上映される予定である。


最後に、この11年間、このような貴重な機会をお与えくださったシルク博物館のみなさまに心から感謝の気持をささげたい。
二年ぶりのゼミ学外活動
2020年2月にバスを貸し切り、箱根仙石原のポーラ美術館そして星の王子さま美術館に出かけたのが、ゼミで学外活動した最後であったと思う。その直後から新型コロナウイルスに見舞われ、日常は一変した。4月に入学した学生は登校できず、授業は慣れないオンライン。緊急事態宣言が繰り返し発令されるなかで対面指導を受けることもままならず、楽しみにしていたであろうキャンパスライフも奪われ、そうして今年2022年、かれかの女らは3年生になった。
未だ感染の収束は見えず案じられる。だが、社会経済活動の停滞が及ぼす影響は大きく、大学もこの4月からは対面授業を基本とする方針へと舵をきった。制限されていた学外活動も再開した。
感染が拡大しないうちに、学生らとすぐにでも出かけたいと思った。出向く先に選んだのは上野、東京都美術館で4月22日から始まった「スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち」展。芸術作品に親しみ、感性を磨くことをめざすゼミとしては、展覧会見学は定番になっている。

展覧会見学後翌週のゼミでは、心に残った2作品について各自コメントをのべてもらった。多くの学生があげたのが、つぎの3点であった。いずれもインターネット上で作品を確認できるので、ぜひ検索していただきたい。
・ディエゴ・ベラスケス《卵を料理する老婆》1618年
金属器の鈍い輝きや陶器の艶やかな質感が絵画とは思えないほどリアルで魅力的
・フランシス・グラント《アン・エミリー・ソフィア・グラント(“デイジー”・グラント)、ウィリアム・マーカム夫人》1857年
美しすぎる女性の肖像
結婚直前の娘を描いた父の娘への愛情が込められている
・フレデリック・エドウィン・チャーチ
《アメリカ側から見たナイアガラの滝》1867年
展覧会の最後に展示されていた作品で、臨場感あふれるインパクトのある絵画
水しぶきや水の流れが映像のように見えてくる
そして私が選んだのは、ジェームズ・バレル・スミスによる《エディンバラ、プリンシズ・ストリート・ガーデンズとスコットランド国立美術館の眺め》(1885年)である。2010年8月31日から9月2日、滞在していたロンドンからエディンバラを訪れたときのことが思い出されてならなかった。



コロナ禍で海外旅行も不安な状況とはいえ、有難いことに来日する海外の美術館展は目白押しである。日本にいながらにして芸術文化に触れられる機会を大切にし、学生らと共に楽しみたい。
本の購入のきっかけがカバーデザインであったということはないでしょうか
夏目漱石は『吾輩は猫である』の序文で、自分が書いたものが自分の思うような体裁で世の中に出ることが出版を促すに充分な動機であるとのべています。『こゝろ』にいたっては自身で手がけているほどですから、いかに装丁に思いを寄せていたかがわかります。
歴史を振り返ってみれば、書物が巻物から冊子本に変わると、製本・装丁がたいへん重要になりました。その背景にはキリスト教があり、神の言葉とされる聖書を教会で大切に保存する必要が生じたからです。信仰の証として豪華に装丁された聖書が組織的に制作されました。やがて15世紀にグーテンベルクが印刷術を発明すると、書物は特権階級の耐久消費財ではなくなりますが、むしろそのことが工芸的製本を推し進める要因になりました。つまり多数の同じ本が存在するなかで所有者の個性を強調する装丁が生まれたのです。その後、覇権をめぐる政治闘争や宗教戦争により、製本・装丁のありようも少なからず影響を受け、複雑な道を歩むことになりました。
18世紀末になると産業革命により、書物の世界は変化の時代を迎えます。工業化の進展により大量生産が可能となり、多くの人の手に届くものになりました。とはいえ特定の書物や蔵書を他から際立たせ、価値を引き上げるための豪華な製本は廃れず、他方で時代の趣味を反映した質の高い版元製本も登場しました。
共生デザイン学科の学芸員課程3年生による博物館実習の一環としてブックデザインの展覧会「本の表と裏 装いの景色」を開催中です。会期は2021年7月13日より10月12日、大学図書館分館との共催です。本学図書館と個人が所蔵する18世紀後半から20世紀初頭に出版された書物を紹介しています。
電子ブックの需要が高まる今日ですが、この機会にぜひ、美しい装丁の世界を訪れてみてください。




難を転じて福となす
新型コロナウイルス感染症の脅威にさらされるようになって7ヶ月余り——。感染拡大防止と身の安全を護るため,さまざまな対策が講じられ,ワクチンの開発も異例の速さですすめられています。しかし収束する気配はいっこうになく,人びとの不安は募るばかりです。
そんな不安の渦中で急浮上した「アマビエ」を御存知でしょうか。古くから疫病を予言すると信じられ,珍獣・幻獣の姿を見ると除災招福の利益があるとされてアマビエの絵が話題となりました。ユーモラスな姿は鬱屈した空気を和らげ,神社や寺院は疫病退散を願う護符として頒布するようにもなりました。そしてこのアマビエの存在は,いつの世からか人間が災厄や恐怖と共存し共生をやむなくさせられてきたこと,そうしたなかで無事を願い,その切実な思いをなにかに託し,日々暮らしてきたことを再認識させるものでもありました。
共生デザイン学科の1年生春学期の科目に「共生デザイン入門」というオムニバス(輪番制)の授業があります。「デザインの主題」というテーマで模様の意味についてお話しています。そこで今回,取り上げた模様のひとつが「南天模様」でした。南天は赤い実をつける植物で,お祝い事のときに出されるお赤飯にはその葉が添えらますし,テーブルウエアの装飾にも使われます。また江戸時代には火災よけ,魔除けとして庭や玄関先に植えられ,この習俗は今日も日本の各地に残っています。
では,なぜ南天なのでしょうか。これは一種の言葉遊びで「難(なん)を転(てん)じる」に通じるとし,縁起木として愛されたからなのです。江戸時代にはこうした語呂合わせがよくおこなわれました。授業では,当時の南天模様小袖の例を数点,スライドでお見せしました。そして身のまわりのもの,とくにもっとも肌身に近い衣服にそれらの模様がつけられていたことに注目していただきました。
アマビエにしても,南天模様にしても除災招福の科学的根拠などはありません。しかし人間はそこに一縷の希望をつなぎ,困難なことに遭遇しても挫けず乗り越えたいという気持を抱くのです。「ピンチはチャンス!」「難を転じて福となす」というわけです。
本学図書館分館との共催による学芸員課程の企画展示《いき クールな江戸の美》
昨年の柳宗悦『手仕事の日本』をテーマとした展示を引き継ぎ,ことしもまた日本人の生活や美意識にフォーカスしたいと考えました。そこで柳の民芸運動とちょうど同じころ,昭和5年に発表された九鬼周造の『「いき」の構造』に注目しました。この本は,8年にわたる留学を終え帰国した九鬼が,植民地化したような町の変貌ぶりを憂い,近代日本のめざす方向から外れたものとして斥けられつつあった前時代の美に西洋哲学の分析的思考によって光をあてたものです。
さて「東京2020」を来年に控え,「インバウンド」(外国人旅行者)という語が以前にもまして聞かれるようになっています。日本政府観光局の調べによれば,この約5年のうちにその数は3倍に増加し,昨2018年には3000万人を超えたそうです。都道府県別訪問率ナンバーワンは東京で,なかでも人気のスポットは浅草。北斎,国芳など世界的に高く評価され,海外でもファンの多い浮世絵,そこに漂う江戸情緒に惹かれ,下町に関心が寄せられているのではないでしょうか。
では,その江戸情緒とはなんでしょうか。
東京スカイツリーのライティングデザインに目を向けてみましょう。当社のホームページによれば,3つのスタイルは江戸の原風景を継承するもので,心意気の「粋(いき)」,美意識の「雅(みやび)」,賑わいの「幟(のぼり)」とのことです。先端テクノロジーと伝統文化との美しい融合がみられます。
本展では,昨今のこうした動きをとらえ,江戸深川の流行語として1770年ころから使われ始め,19世紀前半(天保期ころ)には江戸町人の生活に定着していたと言われる「いき」について,九鬼の言及にそってその美感を捉え,江戸時代の浮世絵,洒落本や滑稽本などの戯作,さらには歌舞伎を通じて町人社会に拡大した「いき」好みを視覚的に御理解いただけるような構成としました。
図書館所蔵の文献や浮世絵(江戸時代の実物版),また江戸時代から現在までつづく版元で当時の版木をもとに復刻された団扇絵などを紹介,最終日にはミニセミナーも開催しました。


学芸員課程の展示実習をとおして「暮らし」や「ものづくり」について考える
人間共生学部共生デザイン学科では、希望すれば学芸員課程を履修することによって
学芸員資格を取得することができます。
これはいわゆる国家資格で、国で定められた博物館法に則ってカリキュラムが構成され、
それらの単位を満たせば卒業と同時に資格証が授与されます。
しかしこの資格があるからといって、誰ものがその職につけるかといえばそうではなく、
供給数に比べ需要数がすくないため狭き門であることや展覧会の企画をするうえでは
調査研究が必要で研究職であることから大学院への進学も視野にいれておかなければ
ならないからです。
それならばなぜ、そのような資格課程を置いているのかと疑問にもたれるのではないでしょうか。
担当教員であるわたし自身は、この課程が共生デザイン学科の学びの補助線になると考えています。
人間の暮らしについて根本的にまた具体的にさまざまな角度からアプローチする本学科の
どの分野にも共通する姿勢は3つのM、すなわち
「みる」(観察)、「みいだす」(発見)、「みせる」(提示)
であろうと思われます。
文化芸術、自然環境等のさまざまな現象にたいして、どのようなまなざしを向けられるのか、
そこにこれまで気づかなかったことはないか、
新たな気づきがあったならば、それをどのように表現し伝え、考える機会とするのか。
学芸員課程では資料論や展示論、メディア論そして実習をとおして、その基本を学ぶことに
なるでしょう。
4年生になると学芸員課程の最後の仕上げとして館園実習に出ますが、
その前に3年生では学内で博物館実習をします。
今年度春学期は、日本民藝館の「柚木沙弥郎展」および併設展見学
(見学館や展覧会に関して事前にリサーチ、事後に展示内容について報告)を実施、
そのほか自主学習として博物館で実施されているラーニング・プログラムへの参加・報告、
そして現在は7月初旬から実習として開催する小さな展示に向け準備をすすめています。
今回の企画は、近年、とくに若い世代の間で顕著になりつつある手仕事の世界への
関心を背景に柳宗悦の『手仕事の日本』を題材にしたものになります。
柳宗悦は、大正時代末期に手仕事により作られた日常の生活用具のなかに
美を見出した思想家で、それらを「民藝」と称して、仲間とともに全国を旅し
優れた民芸品を収集、昭和11年に東京・駒場に日本民藝館を創設しました。
実習では柳らのようにはできませんが、『手仕事の日本』「関東」編に
あげられている結城紬や益子焼、箱根寄木細工や鎌倉彫などについては手持ちの物を
使用し、また東京の老舗がつくる櫛や組紐などは学生らが店頭で選び購入して
展示する予定です。


なお展示は、図書館分館の協力を得て、館内カウンター前のガラスケースにておこないます。
企画する学生にとっても、また御覧いただく方々にとっても、日用品へのまなざしが変わる機会となれば幸いです。