教員紹介

人間共生学部教員コラム vol.190

2016.01.28 共生デザイン学科 杉田 正樹

ある日のゼミ室

世界中が物騒である。テロがあり、戦争があり、難民があり、深刻な不況がある。環境問題など吹き飛びそうに見える。

 

国内を見れば、フクシマはまだまだ大変な状況なのに、今や、まるでなかったかのごとくであるし、沖縄の普天間はほとんどよそ事である。原発は再稼働するし、輸出までするという。五輪などで騒いでいる場合なのか。格差は開く一方で、若者には過酷な状況が日増しに強くなっている。

 

こうした内外の問題“解決”のために、今や戦争が選択肢の一つになりつつあるようだ、と言うのは言い過ぎか。杞憂であって欲しいと願わずにはおられない。

 

日頃から、「国家は国民を見殺しにする」、これだけは忘れるな、「最終的に君たちを守るのは憲法だ」、これも忘れるな、と言っているのだが、スマホ命の学生諸君にはなかなか届かぬようだ。「スマホを敵視する先生は旧人です」と言ってはばからない。意地でも現実を見たくないという勢いである。

 

いや、そんなことを言いたいのではなかった。ついこの間、ゼミでカントの『永遠平和のために』(1795年)を数回にわたって読んだ。

 

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【『永遠平和のために』は、いくつかの訳が出ている。】

 

230年ほど前に書かれたこの小さな本は、国際連盟や国際連合の基本原理となったのだが、今だにその重要性が失われていないのは、遺憾と言う他はない。もっとも、それだけカントの思想が根本的で、射程が大きいということであろう。哲学への信頼や、平和のための具体的提言、それから政治家諸氏に対する皮肉な論評も興味深い。

 

特に自然についての議論が面白い。自然は人間に戦争をやらせたいのか、それとも、永遠平和へと導きたいのか。要するに自然は人間に何をさせたいのか、そういう挑発的な問題がそこにある。

 

(余計な注を入れておく。「自然がやらせる」というのは変な言い方だが、カントはこんな風に言っている。「自然が意志するというのは、人間が好むかどうかにかかわらず、自然がみずからそれをなすということである。」…「自然は、諸民族が溶け合わずに分離された状態を維持するために、さまざまな言語と宗教の違いという二つの手段を用いている。言語と宗教の違いは、諸民族のうちに他の民族を憎む傾向を育み、戦争の口実を設けさせるものであるが、一方では文化を向上させ、人々が原理において一致して、平和な状態で互いに理解を深め合うように力を発揮する。」モノを能動的な主語とする欧文の面白さである。)

 

というところで休憩に入り、私は自分の席に戻りちょっとした作業をしていたら、下のごとき学生たちの雑談が聞こえてきた。(ゼミは3年生、4年生合同で2コマ続けてやるのである。研究室は広く、奥に私の机があり、一応ドアで仕切られているが、ガラス張りで、まる見えでまる聞こえである。)

 

「近い将来、ロボットが人間の仕事を奪うんだって。」
「野村総研の研究だろ。10年から20年のうちに半分はロボットになるというよ。」
「キャノンも無人工場を作るって。」
「そのころのやつら就活大変だろうなあ。」
「何が人間に残るのかなあ。」
「半分は残るよ。」
「半分しか、だろ。多分もっといくね。」
「でも、人間って仕事の阻害要因でもあるよな。」
「サボるし、ヘマをするし。」
「機嫌を損ねるし。飯だって食うし、トイレに行くし、寝るし…。」
「授業でもね。」
「ロボットは24時間平気で、暗闇でも働ける。」
「ロボットは学習するっていうじゃん。」
「えらいなあ。」
「これでビッグデータを使えば、何だってできるよ。」
「ロボット、人間がいない方がいいって言わないかな。」
「言うかもね。」
「おれがロボットだったら言うかも。」
「よせよ。」
「あのロボットがかわいいとか、あれとは一緒にやりたくないなんて。」
「仕事の後の電気は美味いとか。」
「10キロワット、キューッとやりたいとか。」
「そんなこと言わねえよ。ロボットだよ。」
「感情をもてば言うよ。」
「もてないよ。」
「そうかな。人間の感情だって脳だよ。物質じゃん。」
「なんか違うような気がするけど。」
「気がするなんて、そんなアイマイなの、ロボットは許さないね。」
「学習するって体験を積み重ねるってことだよな。」
「ビッグデータだよ。何億人分の体験だよ。」
「何億人たって、限られたものだよ。」
「でも、何でロボットは働くんだろう。」
「欲望だよ。感情だって欲望なしじゃ成り立たないんじゃない。」
「ロボットに労働意欲をもたせるの?」
「欲望チップをポンと装着すると、がぜん働き出す。」
「で、人間ぬきで、競争を始め、ついに戦争するか。」
「恐いなあ。」
「戦争でロボットを使いそうだね。」
「倫理チップも入れなきゃ。」
「考えて見りゃ、人間も欲望をもってるよね。」
「自然が入れたんだ。」
「そして、競争して、テロして、戦争かよ。」
「人間も欲望チップでやってんのか。やだねえ。」
「自然は人間に何をさせたいのかな。」

 

自ずと、人間とは何か、という問題を考えている。ゼミで『A・I』や『i ロボット』、『トランセンデンス』などの映画を観たせいかも知れない。振り返ってみれば、ずいぶん偏った映画を観ているように思える。以前、『マトリックス』も観た。偏っているどころではない。

 
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【コンピュータの中で再生した天才学者。理想社会を求めて現実世界を壊しだす。恐い。】

 

最後に「自然」が登場したところで、ゼミを再開した。

 

ところで、次回はあの伝説の『東京物語』を観る予定である。およそロボットから遠い物語である。若い学生諸君がどんな反応をするか、いまから楽しみだ。

 

 
杉田 正樹(共生デザイン学科)

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