教員紹介

人間共生学部教員コラム vol.137

2013.12.19  井上 枝一郎

交換留学生を受け入れて思ったこと

今年の春学期まで、南京師範大学日本語学科からの交換留学生2名を1年間ゼミ生として受け入れました。名前は、劉嘉妍君と羅旋君の二人です。二人とも優秀な学生でしたが、その内の一人、劉君は日本の中世から近代までの歴史(戦国時代から明治維新辺りまで)が大変好きで詳しい知識も持っていました。例えば、「歴史上で好きな人物は誰ですか?」と問いかけると躊躇することもなく「織田信長と坂本龍馬です」と答えます。続けて「では、それは何故ですか」と畳み掛けると「旧体制を壊して、新しい時代を切り開くという気概に満ちていたし、実際にそれをやり遂げたことです。それに、本能寺での信長、京都近江屋での龍馬という二人の死に様は、物事に懸ける男のロマンと壮絶さを物語って余りあるからです。でも、私は明智光秀と石田三成も嫌いではありません」なんていう答えが即座に返ってくるという具合です。たしかに、日本でも中国の三国志が大好きで、中でも諸葛孔明に憧れます、などという人も大勢いますが、中国の大学三年生で日本史にここまで詳しい学生に出会ったのは初めてで驚きました。もちろん、劉君は、現代の日本文化にも大変関心を持っており、在日中は会う度毎に質問攻めに合いました。そして彼女は、学科のコミュニケーション賞の発表会では、「日本と中国の“おもてなし”文化の違い」についての調査結果を自ら望んで発表して帰国しました。帰国してもう半年近くになりますが、今でも彼女の目の輝きと貪欲なばかりの知識欲に満ちた顔付きが思い出されます。
こう続けては「問題あり」と叱られそうですが、現在担当している日本の学生さん達からは、彼女ほど積極的な質問を余り受けたことがありません。多分それは、彼女も指摘していましたが、日本独特の「シャイな文化」に拠るもので、学生さん達の個人的資質に拠るものではないのでしょう。しかし、何となく、今の日本の大学生はこれで良いのかな、信長や龍馬のように旧体制の文化を壊す元気は無いのかな、と一方では心配にもなります。
日本の大学生が外国の政治や文化に興味を示さなくなり内向きの志向が強くなっている。その結果留学を希望する学生が漸減していると聞いて、いささかの危惧を抱いている筆者はこの問題をどう理解してよいのか戸惑っている毎日です。
加えて、こんなエピソードもあります。それは、日本の学生は欧米系の留学生とは友達になりたがるのに、アジア系の学生にはそれを望まないというのです。何だか未だに「脱亜入欧」の伝統が残存しているのかと思うと悲しくもなります。事実、本学で学んでいる中国人の留学生達も、もっと日本語が上手になりたい、だから日本人学生の友達が欲しい、と度々筆者に嘆くので、何人かは紹介してみるのですが、残念ながら日本人学生にはそのような気分は無いようです。
しかし、筆者の乏しい経験の中からですが、欧米系の文化であれ、中国系の文化であれ、異文化に接触した場合に受けるカルチャーショックは殆ど同等ではないかと思えます。日本人である筆者からみて、このショックを受ける最大の共通要因は、個人的思考を考えの中心に置くのか、集団での思考を中心に置くのか、という点ではないかと思います。最近の日本の若者は、個人の世界に閉じこもり、他人から己の世界に踏み込まれるのを極端に嫌うという調査報告もあります。その結果としての現象が、メールなどのやり取りは構わないが、直接会って話をするのは回避するという態度に表れているというのです。
そう言われて思い当たる節があります。講義の終わりに「何か質問がありませんか」と学生さん達に聞いても、まず手を挙げる人は居ません。ところが、後でこっそり質問に来るという学生が居るのです。大勢が居るところでは、目立った行動は採りたがらない、という日本的集団主義の現れでしょうか。たしかにメールは早くて便利なものです。しかし、メールでは微妙な行間のニュアンス、あるいは会話に伴う物腰や表情などは削ぎ落とされてしまいます。まして、そのやり取りが、異文化間であるならば、「謝々」「カムサハムニダ」「コップクンクラッ」等々いくら文字で書いても本当の気持ちは伝わらないでしょう。
せっかく、本学には中国、韓国、タイなどからの留学生が沢山身近に居るのですから、是非日本人の学生さん達には、自分から進んで活きた異文化コミュニケーションを体験して欲しいと強く望みます。
劉君からの帰国してからのメールに拠れば、日本に留学して初めて自分の国「中国」を客観視できるようになった、とありました。留学経験は、単に異文化間コミュニケーションを体験するだけでなく、自国の文化を相対的に認識できるという効用も大きいものです。
遠い中国にいる劉君や羅君には「これからも頑張れ」と励ますと同時に、翻って、本学の日本の学生さん達には、是非、心の扉を開け放ち、まずは身近に居る留学生達にこちらから声を掛け、異文化に接触してカルチャーショックに強くなり、やがてはグローバルな世界へと大きく羽ばたく人材になって欲しいと願わずには居られません。

井上 枝一郎(コミュニケーション学科)

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