教員紹介

人間共生学部教員コラム vol.132

2013.10.03  藤本 憲太郎

終わらない夏はない ー 地道な作業がもたらす実り

今年の夏は暑かった。例年以上に異常気象のようで、外に出るとまるで熱風の中にいるような感じがしました。それでもやらなければならないことは、変わらずあるのですね。

 

 

高校生、とくに3年生のみなさんは、夏休みと言えども宿題やら受験対策やらで遊ぶ暇もなかったのではあるまいか。実はそれは卒業を控えた大学4年生も同じです。彼らの多くにとって、卒業研究がいよいよ佳境に入るころなのです(時々、陽に焼けて真っ黒ですなどととぼけたメールをよこす学生も居ますが)。

 

 

ひと夏を何かに打ち込んで暮らした体験は、きっと何物にも代え難い自信と喜びを生むだろうと思います。ヘミングウェイだったか「小さな姪にポニーを買ってやるために、ひと夏を懸命に働く」という話があったような気がするのですが、まずは自分のために一生懸命に働く経験がなければ、他者のためには働けないに違いない。

 

 

ついでに言えば、結果が良い方がいいに決まっているわけですが、結果とは別に、身を粉にして打ち込んだ経験で得たものはいつまでも色あせることのない、いわば一生ものです。これがあるかどうかの違いは大きい。このコラムが掲載される頃はもう夏休みはとうに終わっているけれど、打ち込む経験をするのに時期は選びません。夏休みが残念だった人は、今からでも遅くない、ぜひどうぞ。

 

 

さて私たちのゼミの3年生は、春学期にやった成果を小さなパンフレットとパネルに纏めました。今回は「本物と偽物」とは何か、ふたつを分けるものは何かといったことについて考えました。毎回各人が「本物」と「偽物」を対にした例を持ち寄って議論したのですが、これが思った以上に手強かった。

 

 

あなたは,同じ設計図に基づいて別々の会社でつくられたものはいずれも本物と言えると思いますか。簡単そうだけれど案外そうでもないのです。たとえば50年ほども前に最初にA社でつくられた椅子をA社がつくり続ける一方で、B社もつくるというような場合、A社の製品とB社の製品の間に本物と偽物の区別があるのかどうか(購入する側には、A社の製品をオリジナルとして尊びB社のものをリプロダクト品として区別する傾向が強いようなのですが、あきらかに安いだけの粗悪品は別として、忠実につくられているものに対してもそれは変わりません。さて、なぜだろうか)。

 

 

オリジナルの製品の素材を変えて製作した場合、あるものはオマージュを捧げたものとして評価され、またあるものは模倣と見なされることがあります。何がふたつを分けるのか。また不具合を来した製品の部品を純正品で置き換えなかった場合、それは本物と言えるのか。本質が保たれているかぎりそれは本物という意見もありましたが、それでは本質とは何か。こんなふうに、疑問が次々に生まれてくるのでした。実はこうしたことにきちんと向き合うことこそがデザインする上で重要だと思うのです。そしてもうひとつは、はじめからオリジナルでなくてはいけない、しかもそれがアタマの中で生みだすものでなければならないと思いこみがちな学生たちの気持ちを変えることも目的のひとつだったのです…(秋学期はいよいよ空間をテーマに取り組みます)。

 

 

したがって纏める作業もなかなか簡単にはいかず、これを入れる器(ブックレット)のデザインもただ内容を示唆するというだけでは十分でなく、とりわけ表紙は思わず手に取って見たくなるようなものにしなければなりません。手と足を使う作業量もたっぷりとあって、ブックレットのデザインを担当した学生はいつまでも終らないような気分になりがちだったようなのです。これも「デザインする」ことについてしっかりと向き合うが故のことでした。そして、 地道にやるといつの間にか終ることができるのだね。

 

 

オープンキャンパスでやったワークショップの大量のパーツ作りでも同じような経験をしました(これは4年生が手伝ってくれました)。これ以外の僕の夏休みと言えば、帰省した田舎の町で炎天下の中、草花を眺めたり、建物を観察したりしていた*だけなのですが…。この長く続いた猛烈な暑さもやがて終ります(これを書いているのは、また暑さがぶり返した頃)。

 

 

そして、やっている間はつらくてもやり終えた後はたいてい大きな喜びがあります。高校生のみなさんも卒業研究に取り組む学生諸君も、どうか残された時間を悔いのないよう一生懸命に取り組んでください。

 

 

最後に、わたしたちの合い言葉をキャッチコピー風に。

 

 

人は、誰もがデザイナー。
デザインするのは、職業デザイナーばかりではありません。
わたしたちの日常は、あらゆる場面でデザインすることが求められています。

 

 

デザインは、問題解決のための手段。
身近な生活を見つめ直して、デザインする意味と手法を学ぼう。
生活こそがすべての出発点。素敵な生活のために、もっとデザインを。

 

 

*http://home.kanto-gakuin.ac.jp/~fujimoto/nicespaces.html

 

 

藤本 憲太郎(共生デザイン学科)

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